MEDLEYオフィシャルブログ

株式会社メドレーのオフィシャルブログです。

落合弁護士と振り返る、1年間の遠隔診療動向《前編》

当社が提供するオンライン診療アプリ「CLINICS」のリリースから1年が経ちました。さまざまな診療事例も出てきはじめ、法務的な解釈も徐々に整理されつつあります。

今回は、渥美坂井法律事務所のオブカウンセル弁護士であり、遠隔診療をはじめとした医療分野やIT分野の法規制に詳しい落合孝文先生をお招きして、当社の法務担当である田丸とともに、この1年の遠隔診療の法務的な動きを改めて振り返りました。

落合先生は、日経デジタルヘルスで『「遠隔診療」の誤解を解いた事務連絡の正しい読み方』を執筆されていたり、東京大学病院助教佐藤大介先生(筆頭者)らとの検討会メンバーで、遠隔医療学会[1]や医療情報学会[2]で検討結果を発表されています。

また、医療分野も含む新事業開発のコンソーシアムIncubation Innovation& Initiative[3]のアドバイザー、第二東京弁護士会仲裁センター運営委員会副委員長など、医療分野のクライアントへの実務アドバイス以外にも大活躍されています。

「都市型の遠隔診療が可能」と明確にした意義は大きい

(田丸)早速ですが、平成27年8月10日の厚労省からの事務連絡以降、経済産業省産業構造審議会の部会で遠隔診療の診療報酬を対面診療と同水準とする方針が示されたり、安倍首相が議長をつとめる未来投資会議で、遠隔診療を推進し、質の高い医療を実現する旨の提言があったりなど、遠隔診療の機運の高まりを感じます。やはり厚労省の事務連絡の効果は大きかったのでしょうか?

f:id:medley_inc:20170130133827j:plain(落合先生)そうですね。やはり、遠隔診療は「へき地、離島」というイメージがあったのに対し、都市型でも可能であるということを明確にした意義は大きいと思います。実際は平成27年以前でもそれは医師法上可能、ということだったのですが、改めて周知できたということに意味が大きかった。もちろんへき地、離島で遠隔診療に取り組んでいる医師の先生も多くいらっしゃるのですが。

(田丸)また「都市型も」というだけでなく、「特定の慢性疾患以外についても」遠隔診療ができる、すなわち在宅糖尿病など9つの疾患の列挙はあくまで例示列挙である、ということを示したのも大きかったと思いますが、対象疾患についてはどう思われますか?

(落合先生)9つに書かれている疾患はもちろん問題ないのでしょうが、例示されている9つの疾患でないとダメということではないと思います。ただ一方で、どんなものでも良いか、というと現場の医療従事者にとっては書かれていないことにより、躊躇するような疾患もあるとは思います。

(田丸)当社も医師メンバー含め議論しているのですが、やはり「急にお腹が痛くなった」と言っている急性期の患者を遠隔診療で診るのは怖い、という感覚の医師も多いようです。事務連絡に基づき解釈すれば医師法上は問題ないものの、医師の倫理の問題として適切ではないのでは、という感覚をきちんと持つことが重要ですね。

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(落合先生)おっしゃる通りだと思います。ただ急性疾患でも小児科で幼稚園に通う子どもなどを(遠隔で)診てあげたいという声を聞くこともあり、急性疾患でのニーズも一定程度あるようです。しかし多くの方の意見を聞くと、医療のプロとしてやり切れるだけの経験値がないと難しく、どう責任を持てるのかを理解してもらうのは難しいとも思えます。医師法ということもあると思いますが、「医療倫理上きちんとした方法が取れるのか」だったり、医療事故があったときの注意義務という問題意識が強いのかもしれません。

(田丸) アメリカでは風邪の時にオンラインで医師のオンデマンドの診察を受けて、近くの薬局に処方せんをメールなどで送ってもらって薬をピックアップする、というような事例が徐々に普及してきているようです。そのような事例に適用されているガイドラインなどは見てみたいですね。

(落合先生)そういうガイドラインを作っている国は、アメリカに限らずシンガポールなど幾つかあります。もちろん日本の医学として外国の事例をそのまま転用というわけにはいかないですが、参考というか叩き台にして検討していくことはありえるかなと。

「初診対面」は必要条件ではない

(田丸) 「初診は対面以外が許容され得るか」も議論すべき点です。私としては、医師法上の整理としては初診がオンラインの遠隔診療でも構わないという解釈をしていますが、この点についてはどのように解釈されていますか?

(落合先生) 私もそう理解しています。平成28年3月18日の東京都医師会からの疑義照会への回答の後にも厚労省からも規制改革会議での発言がありましたし、疑義照会への回答自体も初診から対面がダメだと書いているわけではないですよね。テキストや画像のやりとりのみなど対面が全く予定されていないものがダメという回答でしたので、初診オンラインを禁止しているものではないと思います。といっても(急性期など)必ず全ての場合でできるというわけではなく、責任を持てる範囲で、ということになってくるのでしょう。

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(田丸)ありがとうございます。そうすると、医師法上は初診オンラインも可能であるものと整理できそうです。ただ一方で、保険診療の場合については健康保険法その他の規則からして、「初診料」の項目が遠隔診療でもOKと書いていません。そうするとやはり実際の医療現場では保険診療の初診は事実上対面が必要、ということになるのですよね?この法律的な整理が必ずしも地方の保健所や厚生局という行政機関で正確に認知されていないことが今後の課題かなと思っているのですが、どう思われますか?

(落合先生)私がもう一つ取り組んでいるFintechの領域では、金融庁が所管官庁なのですが、地方の財務局が規制を理解しつつもわからない部分について金融庁に照会するというプロセスを経る場合があり、これは医療分野での厚生局や保健所からの厚労省への疑義照会と似た構造です。しかし、医療分野では(行政の窓口も多く)通達・事務連絡の内容も必ずしも網羅的に把握されていない。遠隔診療で処方せん料を算定できるのか、通知を見せて欲しいと言われることもあります。地方への周知がきちんと進められていくことが必要ですね。

文字や写真など、LINEやメッセンジャーなどでの診察はOKなのか?

(田丸)また平成28年3月18日の疑義照会回答の話に戻るのですが、 この回答では「文字及び写真のみによって得られる情報により診察を行い、対面診療を行わず遠隔診療だけで診療を完結させる」ものはダメだよ、と書いてあり、「対面診療との適切な組み合わせ」が必要とされています。では、LINEやメッセンジャーなどで患者とコミュニケーションを取り、薬を処方するというのは可能なのでしょうか?

(落合先生)言葉だけを読むと、他分野での規制の読み方であれば、少なくとも限定した場合に利用することはできるんじゃないか、とも思います。しかし「それはできないのでは」という方が非常に多いところも事実であり、実際に文字や写真だけで処方をやろうとした時にダメですよ、と所轄の保健所等が指摘をするリスクはあると思います。この疑義照会回答で出したかったメッセージは、「文字とか写真だけで最初から最後まで非対面でやるのはダメですよ」という内容なのだとは思っています。

(田丸)ありがとうございます。この一年の法務的な動きを一通り振り返ったところで、後半は今後にむけた課題について、お話できればと思います。

 

《後半につづく》

 

◆田丸が遠隔診療の法的整理を解説する連載はこちら

第1回 遠隔診療にかかわる法的規制と規制緩和

第2回 遠隔診療と「遠隔医療相談」 (追記はこちら

第3回 遠隔診療に関連する医薬品の処方について

 ※注釈

[1] http://jtta2016.umin.ne.jp/upload/user/00002451-OChYGO.pdf のB-4-1参照。タイトルは、「遠隔診療が医療に寄与する役割のフレームワークに関する諸外国のガイドライン等から見た一考察」(一般演題)

[2] http://36th.jcmi.jp/program/poster_schedule/の3-K2-1-1参照。タイトルは、「在宅医療における医療従事者を介した遠隔医療の在り方の検討に向けた遠隔診療の適用条件に関する志向性調査のパイロットスタディ」(ポスター発表)

[3] https://mirai.ventures/2017/advisory/ (メンバー企業はhttps://mirai.ventures/iii/member/参照)