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遠隔診療の法的整理 〜連載第4回 遠隔診療での保険診療と自由診療〜

こんにちは。メドレーの法務統括責任者の田丸です。

先日の2017年2月8日は、遠隔診療ソリューション「CLINICS (クリニクス)」のリリース1周年の記念日でした。CLINICSチームは2年目も、オンライン診療を普及させて患者さんにより多くの医療の選択肢を提供するために一丸となって邁進していきたいと思っております。1周年に合わせた企画として、落合弁護士との遠隔診療の法規制についての対談(前編後編)なども公開していますので是非こちらもご覧ください!

さて、遠隔診療の法的整理ブログもいよいよ最終回!「遠隔診療での保険診療自由診療をお送りします。

第1回「遠隔診療にかかわる法的規制

第2回「遠隔診療と遠隔医療相談

第3回「遠隔診療における医薬品の処方

の記事についても、併せてお読み頂ければ嬉しいです。

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 (2016/11/26の遠隔医療学会主催「遠隔医療従事者研修」に講師登壇した際に学会常務理事の長谷川先生と) 

遠隔診療は現在「保険診療では初診が対面である必要がある、自由診療では初診がオンラインであっても構わない」といわれています。この背景にどういう法的整理があるのか、本日はお話します。

Q. 保険診療自由診療とは?

保険診療」とは健康保険が適用になる治療のことをいいます。健康保険が適用になると、患者はかかった医療費のうち通常3割の自己負担分を支払うことで、病院(※)での治療を受けることができます。

(※) 本当は「医療機関」という言葉が病院と診療所の2つを含む概念として正しい言葉なのですが、ここでは皆さんの馴染みのある「病院」という言葉で統一しています。

どんな治療であれば健康保険が適用になるか、というのは健康保険法と療養担当規則という法令に基づいて詳細に決められています。例えば、保険制度を利用することの引き換えとしてどういう治療ができるのか等に制約があったり、この治療はいくら、という価格(診療報酬)があり病院が勝手に変更できなかったり等です

一方「自由診療」というのは、健康保険が適用されない治療をいい、代表的な例としては病院が行う美容整形や、美容皮膚科での医療脱毛などがあります。

自由診療には保険診療のような治療内容や価格の制限はありませんが、「なんでもやってもいい」という意味での自由ではなく、医療行為として医師法医療法には従わなければなりません。例えば「医師がきちんと診察・診断し、処方する薬を決めなければならない」という義務は医師法が定めるものなので、自由診療であっても医師はこれに従うことになるんですね。

自由診療は「自費診療」とも呼ばれるように、患者は病院が独自に設定した診療の金額をすべて負担します。

(ちなみにCLINICSは、どちらのスタイルでも対応できるようになっています!) 

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Q. 遠隔診療に保険・自由の区別は影響するの?

第1回からこのブログを読んでくださっている読者の方はもうおわかりかと思いますが、「医師による診察はビデオ通話の方法でも(患者の情報をきちんと取得できる限りは)大丈夫だよ」として遠隔診療を認める規制緩和は、医師法第20条についてのものです

医師法20条:「医師がきちんと診察・診断し、処方する薬を決めなければならない」と定めるもの。いわゆる無診察治療の禁止を定めている。

医師法保険診療でも自由診療でも同じように適用されるので、オンライン診療は保険・自由の区別なく実施できます。

しかし保険診療の場合には、健康保険を適用できる条件として、治療方法に制限があります(上述)。例えば「初診料」(※)。これは皆さんが初めて病院にかかったり、かかりつけの病院でも新しい病気にかかる場合に診療報酬に算定されるものです。

 (※) 初診料の「初診」って何なの?という点は非常に深い論点で、ブログが2本くらい書けてしまうので今回は割愛します。

この初診料は「どういう場合に加算して良いか」が詳細に定められているのですが、そこに「電話等により実施した場合でも加算して良い」と書かれていないのです。2回目以降の診察のときに算定される「再診料」には「電話等による再診」でも算定して良いとされているので、電話等=遠隔診療も含む、と解釈してオンライン診療でも算定しています。現在のオンライン診療の保険点数の算定は、いわゆる「電話等再診」が明文で認められているものに(原則として)限られています。しかし初診料についてはこれがOKと明文化されていないことから、「オンラインでの初診は保険がきかない」ということになります。

   初診料:遠隔診療(オンライン診療)では算定できない

   再診料:遠隔診療(オンライン診療)でも算定できる

こうした解釈を受け、病院としても報酬を算定できないにも関わらず、初診から遠隔診療を実施することは通常ないことから、「保険診療の場合には初診は対面診療で行われる必要がある」ということになります。

Q. その他の診療報酬点数は?

遠隔診療の普及の課題として「遠隔診療の場合には対面診療と比べて診療報酬が低額にとどまってしまうこと」が挙げられることがあります。具体的に、初診料以外に遠隔診療では診療報酬が付けられないケースは他にあるのでしょうか?

病院を受診した際に受け取る診療報酬明細を見てもらうと、保険診療の場合には、明細書に色々な項目が記載されています。代表的な例では以下のようなものがあります。

(1)処方せん料:医師が処方せんを発行した場合の加算

(2)外来管理加算:医師が丁寧な問診と詳細な身体診察を行ったときの条件として定められているものを満たす診察を行った場合の加算

(3)明細書発行体制加算:病院が診療明細書を患者に渡せる体制を有している場合の加算

(4)時間外対応加算:病院が通常外来を受けている時間以外に対応した場合の加算

(詳細はエルゼビア・ジャパン社のHP内こちらこちらに詳細な記載があります)

(5)特定疾病療養管理料:糖尿病などの特定の疾患について治療計画に基づき療養上必要な管理を行った場合の加算

上記の代表的な項目のうち、1、3、4については遠隔診療でも加算できると解釈されていますが、2や5についてはそれが認められていない現状です。

このように、同じ診療をオンラインで実施した場合に、対面と比べて病院が受け取ることのできる報酬は低くなるのが現状で、病院としても遠隔診療に取り組むインセンティブが湧きづらい(※)、という意見もあります。

(※) 患者からすれば支払う金額が低くなるので良い部分もあるのですが、遠隔診療は「対面診療と適切に組み合わせる」ことが必要にもかかわらず、オンラインで便利なサービスが対面よりも低額な場合、患者が対面診療のために定期的に来院するモチベーションが低下し、患者行動の適切なコントロールが難しくなるとも言われています。

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(未来投資会議で遠隔診療の推進について提言する安倍晋三首相。官邸HPより。)

Q. この状況は変わらないの?

いえ、そんなことはありません。経済産業省産業構造審議会の部会で遠隔診療の診療報酬を対面診療と同水準とする方針が示されたり、安倍首相が議長をつとめる未来投資会議で、遠隔診療を推進し質の高い医療を実現する旨の提言があったりなど、遠隔診療で算定できる診療報酬をきちんと対面診療と同水準まで引き上げていこう、という動きが政府と厚生労働省の中で進められています。

医療における診療報酬の制度は2年に一度改定されるのですが、次回の改定である平成30年度には、遠隔診療でも算定できる診療報酬が増えると予想されています。診療報酬の改定では、中医協中央社会保険医療協議会)という協議会の中で、診療報酬を支払う健康保険組合などの「支払側」と、診療報酬を受け取る病院などの「診療側」が、改定について議論を重ねていきます。

平成30年度というと、あと1年と少しですね。本連載の第1回をリリースしたのが昨年5月ですから、あと1年は本当にあっという間です。

診療報酬改定のタイミングまでに、オンライン診療の文化はますます国民生活の中に根ざしたものになっていくでしょう。オンライン診療の適切性・妥当性などについての議論を支援できるよう、当社でもきちんとした情報発信を続ける必要があります。この連載は今回で最終回ですが、こうした取り組みのなかで見えてくる新たな法的見解があれば、改めて発信したいと思っています。

4回にわたってお読みいただいた方々、ありがとうございました!! (実はまだおまけの回はありますが)

 

メドレーでは今後も、患者や医療従事者にとって「納得のいく医療」を実現していくべく邁進して参りますので、応援よろしくお願いいたします!オンライン診療アプリ「CLINICS」のご利用にご興味がある、まずは話を聞いてみたい、とお思いの医療関係者の方は、是非お気軽にお問い合わせください。

遠隔診療システムは導入実績 No.1 の CLINICS (クリニクス)

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株式会社メドレー 法務統括責任者 田丸 雄太

2007年東京大学法学部卒、2008年東京第二弁護士会登録(61期)。2008年より大手外資系法律事務所にて弁護士としてクロスボーダーM&Aや一般企業法務のアドバイザリー業務に携わった後、大手商社のM&A推進部門への出向経験を経て、2016年にメドレーに参画。大手商社出向時代には、メディカル・ヘルスケア部門の海外向け投資案件などにも多く関与。