MEDLEYオフィシャルブログ

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落合弁護士と振り返る、1年間の遠隔診療動向《後編》

オンライン診療アプリ「CLINICS」リリースから1年経ったことを受けて、渥美坂井法律事務所のオブカウンセル弁護士であり、遠隔診療をはじめとした医療分野やIT分野の法規制に詳しい落合孝文先生と当社の法務担当である田丸が対談を実施。この1年の遠隔診療の法務的な動きを改めて振り返りました。(前編はこちら

落合先生は、日経デジタルヘルスで『「遠隔診療」の誤解を解いた事務連絡の正しい読み方』を執筆されていたり、東京大学病院助教佐藤大介先生(筆頭者)らとの検討会メンバーで、遠隔医療学会[1]や医療情報学会[2]で検討結果を発表されています。

また、医療分野も含む新事業開発のコンソーシアムIncubation Innovation& Initiative[3]のアドバイザー、第二東京弁護士会仲裁センター運営委員会副委員長など、医療分野のクライアントへの実務アドバイス以外にも大活躍されています。

遠隔診療における医薬品への考え方

(田丸)後編では、今後の課題を中心にお話したいと思います。まず1点目は遠隔診療における医療品の扱いについて。遠隔診療に基づき医薬品の処方はできる、という点については落合さんも異存はないということでしょうか。

(落合先生)そうですね。そこは私も同意見です。

(田丸)その医薬品をどう患者の手元に届けるのか、というところですが、院内処方の場合には薬を直接郵送する方法、院外処方の場合には処方せんを患者に郵送する方法になると考えています。ここは私は、特に一般的な規制・制限があるわけではないと思っています。

(落合先生)そうですね。私も平成27年厚労省に規制がかからないかと念のため聞いたことがありますが、特に何も関連する法令ないとのことでした。

(田丸)ここで1つ考えたいのは、郵送先は自宅ではなく職場で構わないのか、という点です。

(落合先生)例えば処方せんについての法令でいうと、「誰に渡すべきか」は書いてありますが「どう渡すべきか」は特に書いていない。結局はきちんと本人確認ができるかという点が問われるということになります。職場に送っても本人にちゃんと渡っているのか、病院・医師側でしっかりと状況を確認すべき必要があると思います。

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医薬品の処方に関する規制は緩和するか

(田丸)医薬品の処方に関連して、昨年の4月から電子処方せんの運用が始まっています。また薬剤師による薬の飲み方指導(服薬指導)についても、内閣府が管轄する特区限定で、ビデオ通話などの遠隔でやっても良いということになってきています。 色々と論点はありますが、ひとつ私が感じている課題としては、処方せんが電子化したのに、まだそれを電子メールやアプリなどで患者に送信することまでは解禁されていないということです。つまり処方せんが単にデータベースとして電子化しただけ。現状のまま紙のやり取りが必要となると、どうしても患者に処方せんが渡るまでに郵送のタイムラグが発生してしまいます。

(落合先生) 手続きを電子化する流れが進んでいるなかで、紙を待たされる手間が発生するのは大変ですよね。税金関連でも電子化されてきていますし、電子データに原本性が認められない時代ではなくなっているので、どうそれを原本扱いしていくか工夫はできると思います。今も処方せんはFAXで送られたりしていますが、セキュリティの観点からすると、誤送信のリスクなんかを考えると電子メールの方がより安全だったりもします。

(田丸)処方せんは同じものが複数回使用されるのを防ぐという点も大事なので、そこを技術的にクリアしていくのが重要になってきますね。

(落合先生)技術的にはやりようはあると思います。あとは規制緩和ですが、もしかしたら遠隔服薬指導の方が大きく広がっていくのは難しいのかもしれないと思っています。アメリカの例もそうですが、薬局の方が、数が多く土日でも受け取れたりする。医療と薬局で業界構造も違ったりするので、医師による診察に比べてしまうと、薬剤師の服薬指導を遠隔にしていくのは少し移行しづらいかもしれません。

診療報酬のゆくえ

(田丸)CLINICSの導入医療機関から、診療報酬について問い合わせをいただくことも少なくありません。現在は、遠隔診療の場合には対面診療に比べて一部の加算に算定できないものがある、という点が遠隔診療の普及にむけた課題の一つになっています。前述の経済産業省による方針や、安倍首相の未来投資会議による提言などもあり、前進が見込まれているところですが、ここに何かお考えはありますか?例えば遠隔診療に加算がついていく場合のつき方のところなど。

(落合先生)未来投資会議での提言はあるものの、最終的には厚労省が措置を行うということではありますので、実際の遠隔診療の制度整備について、何か具体的に決まったことが公表されているわけではないと理解しています。診療全般に「遠隔手法による診療の加算」が一斉につくのか、それとも遠隔診療の場合でも認められる加算が列挙のような方式で通達になるのか、という点でいうと、後者になる可能性が高いのだと思います。規定の書き方をどうするかという技術的な点はありますが、「この加算とこの加算については遠隔でも取れます」というような改定になるのではないでしょうか。

医療相談サービスの法律的な理解とは

(田丸)この1年で、遠隔医療相談サービスも増えました。ユーザが医師に対して、チャットやメール、ビデオチャットを介して相談をできるというものです。医療相談とは、「診察・診療ではないもの」として、個別具体的な問診や診断ではなくあくまでも一般論・抽象論を話す場所ということになっています。これを厳密にやろうとすると、医療相談はインターネットなどで医療情報をしっかり調べた人が医師に教えを請う、みたいな使い方しかできないのではないかと思っています。

参考:「遠隔医療」における言葉の整理

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(落合先生)そうですね。弁護士のサービスでも、抽象的なことだけを話すような相談というのは場面が限られます。なぜなら抽象的な相談では、どこまで役に立つのか、というのがわからず個別の相談者にとって十分なサービスではない場合が多いからです。それだったら医療に関する記事をわかりやすく書いて、見やすく分類するので足りるのではないか、という話もあり、遠隔相談サービスを提供される方から、効果的な相談サービスが何かと悩まれる話も聞くことがあります。

(田丸) また、医療相談という「非医療」のものに対し、逼迫している医師のリソースを使うのが正しいのか、という疑問もあります。私も子供がおりますし、夜間に子どもが熱を出した時に相談したいというニーズは非常に理解できます。ただそれは「医療相談」ではなく、オンデマンドの急性期の遠隔診療をどう広げていくのかという視点で考えてみるのが正しいのではないか、と思っています。

(落合先生)そういう側面はありますね。ただ、医師のリソースの有効活用という意味では、遠隔診療の規制の文脈で、例えば医師が自宅からの診察を行えるかという観点で考えても良いと思います。その場合、診療の提供場所は医療機関の施設内でなくてはならない、という制限や急性期の疾患に対してどのような遠隔診療が許容されるか、という点をどうしていくのかを考えていかなくてはいけません。現在いろいろな分野で話題になっている働き方改革の一つとして、産休・育休などの期間中の医師等のリソースを遠隔診療に活かす方法、みたいなところから考えられるとすごく意味がありそうですよね。少し大きな論点にはなってしまいますが。

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(田丸)有用なサービスを設計していくには診療の提供場所の制限は課題ですよね。医療法その他の法令の改正が必要になるところなので、きちんとした議論が必要ですが、医師不足や医師の過重労働という観点からも課題解決に有益だと思います。海外では事例もあるのでそこも勉強していきたいですね。

(落合先生) もちろん、それぞれの国で前提となる環境があるので、海外でワークしているから日本でもうまくいくとは限りません。単純に導入すると医療現場に混乱を与えることにもなりかねないので、慎重な議論が必要になると思います。ただ、海外の事例・制度を議論のたたき台とすることは有用ですので、勉強は進めて行きたいですし、遠隔診療でも海外のガイドラインの検討も必要になると思います。

おわりに

(落合先生)医療界の法規制というのは「どこまでやっていいかいけないのか」が非常にわかりづらい。解釈の材料になる文章が少なかったり、保健所とか厚生局で規制が周知されていなかったり意見が分かれたりもしています。なので、健全に新しいサービスをできることを模索していくために、例えばこの対談のように医療界の法規制について議論が深まるきっかけが増えていくのが非常に重要だと思っています。

ICT産業では、医療を含めて既存の文脈にてらすとグレーや黒になることが多くなりがちです。日本が少子高齢化していくなかで、日本の働く力を活用するためにITを利用していくことは必須になってくるので、法規制の中でできることを明確化していくこと、情報を発信していくことが必要ですね。

(田丸)私もそうした「議論が深まるきっかけ」を作るべく、今後も積極的に情報発信をしていきたいと思います。本日は貴重な話をありがとうございました。

(落合先生)ありがとうございました。

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◆田丸が遠隔診療の法的整理を解説する連載はこちら

第1回 遠隔診療にかかわる法的規制と規制緩和

第2回 遠隔診療と「遠隔医療相談」 (追記はこちら

第3回 遠隔診療に関連する医薬品の処方について