MEDLEYオフィシャルブログ

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遠隔診療の法的整理 〜連載第3回 遠隔診療における医薬品の処方〜

 こんにちは。メドレーの法務統括責任者の田丸です。

 前回からまた少し間が空いてしまいましたが、この間にもCLINICSを日本全国の多くの医療機関に導入いただき、遠隔診療の広がりが加速しているのを日々肌で感じています。

 先日も鳥取県米子市で開催された日本遠隔医療学会の第20回学術大会において、「遠隔診療の実施に関連した法的論点への回答事例」というタイトルで講演をさせて頂き、このブログで書いているような内容を医療関係者の皆さんに講演させて頂きました(恥ずかしながら学会デビューです!)。その内容や様子については本ブログで別途ご報告します。

10/15(土)の米子での日本遠隔医療学会学術大会での講演の様子

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 さて、遠隔診療の法的整理ブログの第3回は、予定通り「遠隔診療における医薬品の処方」です。第1回の「遠隔診療にかかわる法的規制」の記事と、第2回の「遠隔診療と遠隔医療相談」の記事についても、併せてお読み頂ければ嬉しいです。

 

Q: 「医薬品の処方」とは?

 「医薬品の処方」というと固く聞こえますが、要は「診察を受けた後に薬をもらうこと」です。皆さんも病院(※)で診察を受けた後、処方箋を受け取って、近くの調剤薬局で薬を処方してもらうことが多いと思います。中には、病院でそのまま薬を渡してくれる場合もあるでしょう。

 このうち、病院でそのまま薬を受け取る方法を「院内処方(医院の中での処方)」といい、調剤薬局に行って薬を処方してもらう方法を院外処方(医院の外での処方)」といいます。

(※)本当は「医療機関」という言葉が病院と診療所の2つを含む概念として正しい言葉なのですが、ここでは皆さんの馴染みのある「病院」という言葉で統一しています。

院内での処方・院外での処方

 昔は病院の医師が自ら調剤を行い、薬を処方する院内処方がほとんどでした。しかし「患者の診療は医師が、調剤や薬の飲み方指導は薬剤師が行うことで、それぞれの専門性を発揮しましょう」という国の政策(これを「医薬分業」といいます。)の中で院外処方調剤薬局による処方)が奨励され、診療報酬の点数面でも優遇されるようになりました。

 

 現在では中小規模の施設では、全国的に院外処方を行っているところが大多数を占めています。院内処方、院外処方のそれぞれに長所・短所はありますが、各病院は独自の判断により、どちらのスタイルが合っているかを検討して決めているようです。

(ちなみに弊社の遠隔診療ソリューション「CLINICS」は、どちらのスタイルでも対応できるようになっています!)

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Q: 院内処方の場合の流れは?

 まずは、「院内処方の病院でオンライン診察を受けた場合」の薬の処方の流れ(CLINICSを使った場合)について説明しましょう。

 院内処方の場合は、通常の対面診療であれば、病院に行って診察を受けた後にそのまま医療機関の中で薬を受け取って帰る、という流れになります。これがオンラインでの診察の場合には、CLINICSで医師による診察をオンラインで受けた後に、薬が患者の自宅に送られるという流れになっています。

 この流れを話すと、「病院で処方される薬を郵送などして良いの?」という質問をよくいただきます。しかし実は、一部の毒劇物などを除き、「処方薬を郵送などの方法で送ってはいけない」という規制はないのです。

 ですので、日本郵政やヤマト、佐川などの運送規約で問題なければ、薬を医師から患者に郵送することには法的な問題がないといえます。従って、院内処方を行っている病院でCLINICSのオンライン診療を受診した場合には、診療後に直接お薬がご自宅に届くことになります(便利ですね!)。 

Q: 院外処方の場合の流れは?

 続いて院外処方の場合には、医師が患者に対して処方せんを発行することになりますが、遠隔診療の場合にはこの処方せんを「患者に対してどのように渡すのか」が問題になります。

 医師法第22条は、「医師は、患者に対し治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合には、患者又は現にその看護に当たっている者に対して処方せんを交付しなければならない。」と定めています。要するに、医師は患者に対して処方せんの「原本」を渡さなければならないこととされています。

 これは、コピーされた処方せんを使ってお薬を渡せるようになってしまうと、一つの処方せんが繰り返し使われてしまう(=医師が処方した量を超える薬が手に入ってしまう)リスクがあるためなんですね。

 従って、院外処方の病院でオンラインで診察を受けた場合には、患者は処方せんの紙を郵送で受け取ることになります。ここから先の流れは通常の対面診療と同様で、患者は送られてきた処方せんを自宅や職場の最寄りの調剤薬局に持って行き、薬を購入することができます。

 このような院外処方を実施している病院は、いわゆる診療所やクリニックといった中小規模の施設にとても多いのですが、遠隔診療を実施しても患者が処方せんを持って調剤薬局に足を運ぶ点は変わらず、不便に感じるかもしれません。この点については、後述する規制緩和が進んでいくことにより将来的には解消されていくことが期待されています。

 

Q: 院外処方における規制の緩和とは?

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 上述の通り、院外処方を行う病院で遠隔診療を受診した場合、この図の「院外処方せんの場合」という部分にある以下のステップを踏む必要があります。

 

① 患者が病院から処方せんを受け取る

② 患者が処方せんを調剤薬局に渡す

③ 患者が調剤薬局から薬を受け取る

④ 患者が調剤薬局から薬の飲み方について指導を受ける

 

 これらのステップのうち、①と②は「処方せんの電子化」と「電子化された処方せんのオンラインでの送信」という2つの規制緩和(の可能性)に関連しており、④は「薬の飲み方指導をオンラインで実施すること(=遠隔服薬指導)の合法化」という規制緩和(の可能性)に関連しています。

 

関連する規制の内容

 まずは、①と②に関連する規制緩和の点ですが、医師法22条および医師法施行規則21条は以下の通りとなっており、医師は患者に対して処方せんの「原本」を提供しなければならないことになっています。

 

[ 処方箋の交付義務 ]

医師法 第22条  医師は、患者に対し治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合には、患者又は現にその看護に当っている者に対して処方せんを交付しなければならない。(後略)

[ 処方せんの記載事項 ]

医師法施行規則 第21条 医師は、患者に交付する処方せんに、患者の氏名、年齢、薬名、分量、用法、容量、発行の年月日、使用期間及び病院若しくは診療所の名称及び所在地又は医師の住所を記載し、記名押印又は署名しなければならない。

 

 もし処方せんが電子化されて電子データで取り扱えるようになり(=処方せんの電子化)、かつそれをメールやアプリ等で送信できるということになれば(=電子化された処方せんのオンラインでの送信)、「紙ベースの処方せんの原本を医師が患者に郵送して、それを患者が調剤薬局に持参する」というプロセスをオンラインで完結させることができるようになります。

 

実は「電子処方せん」自体はすでに解禁されている

 電子処方せんは今年の4月から解禁されており、すでに厚生労働省から「電子処方せんの運用ガイドラインの策定について」という通知も出ています。しかし電子メールによる処方せんの送受信については、医療情報の安全なやり取りを完全に確保できないとして、ガイドラインの中では採用されませんでした。

 従って現在の運用は、処方せんIDが記載された「電子処方せん引換証」の紙と「処方せん確認番号」を患者が薬局に持参する形となっています。

 また、処方せんの写しを電子メール等を使って薬局に送ること自体は、厚生労働省から平成26年に出た「電子メール等による処方内容の電送等について」通知により可能になっています。

 

しかし「服薬指導」は対面で

 しかし、最終的には患者が薬剤師に処方せんの原本を渡し、薬の飲み方指導(=服薬指導)を「対面で」受けなければならないことになっているのが現状です。そのため、処方せんの写しをメールで薬局に送っても「事前に薬局に処方された薬の情報を送っておいて、調剤の待ち時間を軽減する」程度にしか使われていない状況です。

 そこで、④の「遠隔服薬指導」についての規制緩和の話になるのですが、こちらは薬剤師法25条の2が以下のとおり、薬剤師が調剤した薬を患者に渡す際に、「対面で」薬剤に関する情報提供・服薬指導を実施することが義務づけられています。

 

[対面での服薬指導]

薬剤師法 第25条の2 薬剤師は、調剤した薬剤の適正な使用のため、販売又は授与の目的で調剤したときは、患者又は現にその看護に当たっている者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならない。

 

  皆さんも薬局に処方せんを持参して薬を受け取るときに、薬剤師から用法・用量についての説明や、副作用などについての説明を受けると思います。現在の法規制上、この「服薬指導」は、薬剤師と患者が対面で実施しなければならないことになっています。

 

特区での規制緩和について

 この「服薬指導は対面でなければならない」という原則は現在、国家戦略特区として認定された地方自治体のみという限定つきですが、「テレビ電話で行っても構わない」という形で規制緩和されてきています。

 ただし、オンラインなどでの「遠隔服薬指導」は、遠隔診療などにより医師から対面以外の方法による診察に基づいて受け取った処方せん(特定処方せんと呼ばれます)を対象として行うことが前提となっています。

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 特区での規制緩和は現時点ではへき地・離島などで薬剤師・薬局の数が少なく、患者と薬局との距離が相当程度遠い場合などに限定されているものの、この特区内では、(上記の「電子処方せん&電子処方せんの電送」という点の規制も同時に緩和される限りにおいては)院外処方せんが発行された場合でも、患者はオンラインで薬剤師の服薬指導を受けることにより、自宅にいるままで医師が処方した医薬品を受け取ることができることになります。

 この「遠隔服薬指導」の規制緩和が特区以外の一般的なエリアに拡大される可能性はまだまだ不透明ではありますが、全国的に規制緩和された場合には、遠隔診療で院外処方せんが発行された場合の患者側の利便性の向上が見込まれることになります。

 処方せんの電子化やオンライン送信に伴う薬の不正取得リスクなどはもちろん対処する必要がありますが、私個人としては、オンラインでの診療が適切な形で普及していくためにはやはり服薬指導もオンラインで解禁されていくことが必要だと考えています。 

Q: オンライン診療における調剤薬局の今後の役割は?

 平成28年度の診療報酬改定において「かかりつけ薬剤師指導料」という項目が新設されるなど、薬局では現在かかりつけ薬剤師制度が注目されています。

 各調剤薬局も、このかかりつけ薬剤師指導料に見合った付加価値を患者に提供し、患者から積極的に選ばれる薬局 / 薬剤師になるよう努力しています。実はこの流れは上述の遠隔服薬指導が全国的に規制緩和された場合に「どの薬局 / 薬剤師が選ばれるのか」というところと強く関係していると思います。

 今までの対面診療を前提とした流れであれば、薬局は処方せんを発行する病院の近くに、いわゆる門前薬局を構えることで一定数の処方せん受け入れを期待することができました。

 しかし今後オンラインで医師による診療が行われる場合には、病院との物理的な距離よりも、オンライン診療を受診した患者が「どの薬剤師から調剤を受けたいか」という観点で選択されることの方がより重要になってくるということです。

 これは現在の薬局のビジネスモデルに一部ながらも変容を迫るものではありますが、より患者から選ばれる薬剤師となるために付加価値を提供する努力が奨励されるという意味があり、薬局のサービスレベルの全体的な底上げにつながるかもしれません。そういった観点からは、必要な変容なのではないかと思っています。

 

株式会社メドレーでは今後も患者のために「納得のいく医療」を提供していくべく邁進して参りますので、応援よろしくお願いいたします!遠隔診療ソリューション「CLINICS」のご利用にご興味がある、まずは話を聞いてみたい、とお思いの医療関係者の方は、是非お気軽にお問い合わせください。

遠隔診療システムは導入実績 No.1 の CLINICS (クリニクス)

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株式会社メドレー 法務統括責任者 田丸 雄太

2007年東京大学法学部卒、2008年東京第二弁護士会登録(61期)。2008年より大手外資系法律事務所にて弁護士としてクロスボーダーM&Aや一般企業法務のアドバイザリー業務に携わった後、大手商社のM&A推進部門への出向経験を経て、2016年にメドレーに参画。大手商社出向時代には、メディカル・ヘルスケア部門の海外向け投資案件などにも多く関与。